2009年9月1日開票の衆議院総選挙で、日本は、第二次世界大戦後始めてといわれる本格的な政権交代が起きた。それまで野党第一党であった民主党が、自民党に代わって、国民新党・社民党と政権党となった。このとき、民主党がマニフェストに掲げたスローガンに「友愛」があった。
以下に、当時は民主党の党首であった、鳩山由紀夫のホームページから引用する。
2009年5月14日(木)
「友愛社会」の実現を目指して
1.民主党の目指す社会は、私流に言えば友愛社会です。すなわち、個人の自立・尊厳を前提に互いに支えあう社会です。今日、日本が直面している最大の課題である少子高齢化問題も、友愛精神に基づく下記の政策で解決し、国民が安心して、心豊かに暮せる社会を実現してまいります。
・ ムダづかいを根絶し、税金を官僚の手から国民の手に取り戻す
1. 予算編成を政治家主導で行う
2. 「天下り」「渡り」の全面禁止を含む公務員制度改革を行う
3. 企業・団体献金の禁止、世襲制限、衆議院の比例定数を80削減する
・ 信頼できる年金・医療・介護を作り上げる
1. 年金記録問題の解決と年金制度の一元化を行う
2. 「後期高齢者医療制度」を廃止し、医師・看護師等の不足を解消する
3. 質の高い介護サービスを提供するため、介護労働者の待遇を改善する
・ 国民生活への直接支援・減税で可処分所得(平均的世帯)を2割増やす
1. 年額31.2万円の「子ども手当」を支給する
2. 高校教育を実質無料化する
3. 失業保険を強化し、求職者支援制度を創設する
2.世界の平和を自ら築いていくことが、これからの日本の安全を守るための基本です。その上で、国連をはじめとした国際社会に積極的に貢献し、グローバル化した世界の諸問題の解決に取り組む尊厳ある日本を目指します。
・国家として自立し、価値の異なる社会とも共生していける友愛外交を推進する
・ 新型インフルエンザにみられるようにグローバル化した今日、諸問題の多くは一国だけでは解決できない。国連をはじめとした国際機関に積極的に貢献する。
ここでいう「友愛」について、鳩山友愛塾の「設立趣意書」(2008年1月)は、以下のように述べている。
「友愛の淵源は、クーデンホフ・カレルギー伯(汎ヨーロッパ運動主催者)の友愛革命を原点とし、その目的は人類の人格の尊厳を基調としての相互尊重、相互理解、相互扶助であり、人道主義、人格主義、協力主義、そして騎士道、武士道までも包含した謂わば紳士と淑女の人間関係の涵養であり、その核心は母性愛を根源とした人間や自然に優しい世界の醸成であります。」
リヒャルト・ニコラウス・栄次郎・クーデンホーフ=カレルギー(Richard Nicolaus Eijiro Coudenhove-Kalergi、1894-1972)は、東京生まれのオーストリアの政治家で、汎ヨーロッパ主義[1]を提唱し、それは後の欧州連合[2]構想の先駆けとなった。
そのため「EUの父」と呼ばれた。
クーデンホーフ=カレルギーは、その基本理念としてドイツ語でBrüderlichkeitを提唱した。
このことばは、英語で、brotherhood(兄弟愛), brotherliness(兄弟らしさ), fraternity(兄弟関係、友愛会)と訳される。彼は、自身の描く社会や国家になるために、教育改革により、全人類が兄弟姉妹になり、全人類が同一の神の子にならなければまらぬと考えた。
そのために必要なのは、「友愛」という名のこころの革命であると述べた[3]。
英語のbrotherhoodは、古代英語でbroþerredeとよばれ、kindred(親族)を意味した。
中世の英語では、brotherhedeとよばれ、maidenhead(処女性)の意味でもちいられた。
現代的な英語のbrotherhoodは15世紀に現われ、「兄弟の関係性relationship of a brother」を意味し、さらに「親密な交際friendly companionship」をも意味した。
「友愛のつながりassociation, fraternity」の意味でもちいられたのは、14世紀で、このことばは、1880年代に「労働組合labor union」につらなる。
14-15世紀のイギリスは、ようやく海軍力を整備し、来るべき宗教改革にそなえて、イングランド国教会を成立させようとしていた。
英語の「兄弟brother」は、古代英語でbroþorといい、古代ゲルマン語のbrotharに由来し、印欧基語のbhraterに遡る。
この基語から、ギリシア語のphratér、ラテン語のfrater、古代アイルランド語のbrathir、スカンジナビア語のbhrátár-、古代ペルシア語のbrata、ゴート語のbróþar、古代プロシヤ語のbrati、古代教会スラブ語のbratruが生まれた。
このように兄弟を表すことばは、長い歴史を持っている。
一方、英語で「友愛会」を意味するfraternityは、14世紀に生まれた新しい英語で、「共通の関心で結び付けられた多数の男たち」を意味する古代フランス語のfraternitéから生まれた。
このことばは、ラテン語のfraternitatemにさかのぼり、名詞はfraternitasである。
このことばは、さらにfraternusにさかのぼり、「兄弟らしいbrotherly」の意味を持つ。
さらに印欧基語のbhraterにまで遡る。1777年以降、大学におけるギリシヤ文字団体のPhi Beta Kappa(友愛学生団体)の意味を持ち、1895年には短くfratと記述されるようになった。
「親しく交わるfraternize」は、1610年代に現われ、「兄弟のように考える」を意味し、さらに1897年には「敵国との友情を深める」の意味でもちいられた。
このことばは、第二次世界大戦中に敵国の女性をレイプすることばとしても使用された。
このようにみてくると、日本語の「友愛」ということばが、2009年に新しく政治用語としての体裁をとって立ち現われたことが理解できる。
日本語の友愛には、これまで政治的な意味はなく、「(1)兄弟または友人間の情愛。(2)友情を抱いている・こと(さま)」(『大辞林(第二版)』三省堂)とされてきた。
いまや、友愛は「共通の関心で結び付けられた多数の男たち」という、本来の意味を現代の日本の政治状況の中で取り戻しているのである[4]。
2009年12月27日記、28日補注
[1]クーデンホーフ・カレルギーは、雑誌『パン・ヨーロッパ』(1924)を発刊し、汎ヨーロッパを呼びかけたが、これにこたえて、1924年に「汎ヨーロッパ連合」が結成され、またヨーロッパ各国に「汎ヨーロッパ協会」も設立された。1926年に汎ヨーロッパ連合の主催で、「汎ヨーロッパ会議」が開催された。大戦間の汎ヨーロッパ運動はブリアンをはじめ各国の指導的政治家も参加して、大きな盛り上がりをみせた。クーデンホーフ・カレルギーの構想は、汎ヨーロッパ、汎アメリカ、大英帝国などの五大超国家による世界の安定やヨーロッパの統一による平和維持・経済的繁栄の達成を目ざすものであるが、同時にそのなかにある植民地主義、反共・反ソ的傾向も見逃せない。大戦間の汎ヨーロッパ運動はファシズム、ナチズムの台頭によって崩れ去った。第二次大戦後にも、戦前そのままの運動ではないが、ヨーロッパ統合が提唱された。1946年チャーチルは「欧州合衆国」を呼びかけた。この提唱は実際的成果を生まなかったが、大陸では一連のヨーロッパ統合の動きが具体化される。とくに経済的統合は強められ、1967年ヨーロッパ共同体(EC)が発足し、今日、政治的に統合されたEUとして模索が続けられている。
[2]欧州連合EUは、マーストリヒト条約(欧州連合条約、1993年)で設立されたヨーロッパの国家統合体。
[3]Totaler Staat, totaler Mensch, 1937.
[4]一方、儒教の世界は、次のようである。「司馬牛(しばぎゅう)、憂(うれ)えて曰く、人にはみな兄弟(けいてい)ありて、われにひとりなし。子夏(しか)曰く、商(しょう)、これを聞く。死生、命あり。富貴は天にあり、と。君子、敬(つつし)んで失なく、人に与(むか)い恭にして礼あらば、四海のうち、みな兄弟(けいてい)なり。君子、なんぞ兄弟なきを患(うれ)えんや。」(『論語』顔淵第十二から) 【意訳】司馬牛が四人の兄が不出来なことを憂えて、他の人は皆兄弟仲良くて、私は羨ましいと言いました。子夏がこれを聞いて言いました。「私が先生に聞くと先生はこう答えました。『人間の生き死にや富貴は天命によるものである。だから、人としていつも慎み深くしていれば、何も失うことはない。また礼儀正しく恭しくしていれば、世の人は皆兄弟のようにしてくれる。』と。だから、兄弟がないようだなどということは言わない方がいいよ。」
2009年12月30日水曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿